増え続ける乳がん

少子高齢化社会が進むとともに、3人に1人はがんになる時代を迎えました。21世紀を迎え人類はがんを克服するどころか、ますます増加し、がんは決してめずらしい病気ではなくなってしまいました。この8月号では、そのがんの中でも、女性が最もかかりやすいがん、「乳がん」のお話しをしたいと思います。

長野中央病院 外科・乳腺外科医師・医学博士 中島 弘樹

発症のピークは40から50歳代

乳がんは20歳代後半から発症し、発症のピークは40から50歳代にあります。他の臓器のがんは65から75歳近辺に多いことを考えると、子宮頚がんに続き比較的若い世代に起こるがんと言えます。毎年4万人の新しい患者が診断され、1万人亡くなっています。女性の生涯でならすと20人に一人は乳がんにかかるとも言われています。恐ろしい話です。

40から50歳の女性と言えば、家庭でも職場でもいなくてはならない、失ってはならない大切な存在です。つまり、「乳がん」は女性だけの問題ではなく、男性もひいては社会全体で真剣に考えなければならない重大な病です。

ちなみに少ない確率ですが、男性にも乳がんは起こります。これを読んでいる男性も、他人事でなく乳首の下にしこりがないか触ってみてはいかがでしょうか。

一にも二にも早期発見

乳がんを克服するためには、一にも二にも早期発見です。このためには、正しい知識を持つこと、マンモグラフィ―検診(以下MMG)を受けること、そして定期的な自己検診をして自分の乳房を知ることが何よりも大事です。

ただ、20歳から35歳の乳房は乳腺量も豊富で、乳房の支持組織も強くMMGの読影が困難(真っ白になってしまいます)な可能性があり、乳房超音波での検診もおすすめです。

ここで自己検診のポイントをお話しします。

乳房が一番張っていない時期に、指の腹で皮膚をやさしくなでるように丹念に触ります。決してギューとつかんではいけません。自己検診の際に気を付ける症状は、(1)指の腹に引っかかるような硬さ・突起・しこりの感触、(2)乳頭からの出血、(3)乳房のへこみ・変形などがあります。あったりなかったりする乳房の痛みは問題ないことがほとんどです。

「大事な人の命をなくさない、大事な人の乳房をなくさない」

私たちが乳がんを診療する医師は、できるだけ小さな段階での発見を目指しています。なぜなら、乳房以外に転移を伴わない乳がんの場合、(1)乳がんは大きさで再発リスクが変わること(一般的には大きいほどリスクが上がります)、(2)体にやさしい縮小手術である乳房温存手術や最新のセンチネルリンパ節生検が可能かどうかに影響が出るからです。できれば2cm以下、できれば1cm以下、願わくば5mmで発見できたらこんなにいいことはありません。「大事な人の命をなくさない、大事な人の乳房をなくさない」を信条にして私たちも日々乳がんに向き合っています。

今年度になって乳がんの診断・治療についてできることを少しずつ増やしています。

まず、乳房専用コイルを使用することでMRIを用いて乳房の検査ができるようになりました。MRIでは、乳房の内部のがんの存在位置や、乳房に対するがんの広がり具合を測ることができます。乳房温存手術を行うためには欠かせない診断方法です。

そしてこのたび、「センチネルリンパ節(見張り役リンパ節)」という、「がん細胞が最初に転移していくリンパ節」を描出する特殊な機械も導入しました。これにより、最新かつ標準治療であるセンチネルリンパ節生検も可能となりました。うまくいけば腋下のリンパ節の摘出も1~2個で済む可能性があります。

最後になりますが、7月から毎週金曜日に乳腺専門外来を開設しました。気になること、ひとりで悩んでいることがありましたら、お気軽にご相談ください。

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