認知症予防のトピックス

長野中央病院 総合診療科 医師 小林 哲之

少子高齢化・長寿化がますます進む中、身の回りに認知症の方を見かけることが珍しくなくなりました。認知症は誰もがなりうるものです。多くの先進国で、認知症の方と共生する社会を目指しつつ、同時に認知症の予防も目指すことが国の重要なテーマになっています。
ここ最近、医学会では意外な薬に認知症を予防する可能性が発見され、話題になっていたのでご紹介します。

①2024年8月の英BMJ誌に「糖尿病の治療薬であるSGLT2阻害薬に認知症を予防する効果がある可能性がある」という論文が発表されました。
韓国の糖尿病患者11万人分(平均年齢62歳)のデータを事後調査したところ、SGLT2阻害薬で治療されている方は他の薬で治療されている方に比べ認知症を発症する確率が35%低かったそうです。SGLT2阻害薬は糖分を尿中に排泄させることで血糖値を下げ、体重を落とす効果があります。さらに脳や心臓の血管病を予防する効果も知られているので、脳血管の負担が減ることで認知症の予防につながっているのかもしれません。
ただ、詳しいメカニズムは分かっていません。ご高齢で筋力が少なかったり脱水のリスクがある方には処方しにくく、やや高価なお薬なので、そもそもこの薬を処方されたのがお元気な方々だっただけかもしれません。

②2025年4月の英ネイチャー誌に「帯状疱疹ワクチンの接種が認知症予防の効果がある可能性がある」とする論文が発表されました。
英国の高齢者28万人を7年間にわたり追跡調査したところ、帯状疱疹ワクチンを接種された方は認知症を発症する確率が20%低かったそうです。帯状疱疹は神経に感染したウイルスの再活性化が原因であり、長引く神経痛を起こすこともあります。特に頭部の帯状疱疹は認知症を発症させるリスクが懸念されていました。あらかじめ帯状疱疹ワクチンを打っておくことで神経へのダメージを軽減させれば、認知症予防に効果があるのかもしれません。ただ、これも詳しいメカニズムはよく分かっていません。

いずれの薬剤も、認知症予防の効果は「可能性」の段階なので、確定していません。数年後になって効果が反証されることもあります。ただ、多くの方にとって期待がもてる論文でした。
最後に、私見ですが身近でできる認知症予防は、①誰かと話すこと②地域や家庭で役割を担うこと③新しいことに挑戦し刺激を受けること、だと思います。皆様が生活を楽しみながら認知症も予防できる、充実した日々を送れますように。

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