脊椎の治療について

腰痛、頚部痛は非常に多い訴えであり、整形外科を受診される理由の多くを占めています。腰痛、頚部痛は痛みの性質により大きく2つに分けます。強いはっきりとした痛みと、こった感じなどと表現される鈍痛系の痛みです。

長野中央病院 整形外科医師  水谷 順一

強いはっきりとした痛み

はっきりとした痛みの原因は、若い方なら椎間板ヘルニア、椎間関節症などが一般的で、ごくまれに腫瘍や感染の場合があります。2週間程度で自然に痛みがなくなるか軽くなることが多いため、痛みは強いのですが、後々問題となることは多くありません。

高齢者では、腰痛、背部痛の原因として特に圧迫骨折の割合が多くなってきます。この場合、骨癒合するまで2か月程度、時には1年以上を要し、その間疼痛が継続します。再骨折する可能性も数倍高くなるため、主な原因である骨粗鬆症の加療が必要です。

鈍痛系の痛み

鈍痛系の痛みの場合、若い方なら筋肉痛がほとんどを占めます。高齢者では加齢による脊椎の変形、骨粗鬆症、筋力の低下、椎間関節の変形、椎間板の劣化などが原因として挙げられます。

鈍痛系の痛みが厄介なのは、原因の治療ができない場合が多く、治らないケースが大部分であるということです。

腰痛、頚部痛の治療として手術を希望される方もいます。しかしそれは誤解です。脊椎の手術を行う目的は、脊椎が原因で起こる上下肢の症状を改善することです。手術を受けると腰痛、頚部痛は変わらないか悪化することが多いのです。

手術すべきケース

脊椎に関して手術になるケース、すなわちぜひ受診したほうがよい例について述べます。

まず頸椎ですが、上下肢に力が入らない、箸や書字、ボタンかけが上手くできない、歩行時に安定しない場合です。腰椎では下肢に力が入らない、失禁してしまう場合です。

脊椎が原因で起きる神経痛、具体的には脊柱管内で神経が何かに圧迫されて起きる腰部脊柱管狭窄症の症状の一つなのですが、放置すると神経が完全に障害されてしまい、回復しなくなります。早期に手術で神経の圧迫を除去する必要があります。

痛みよりやっかいな「しびれ」

一方上下肢の痛みは長時間放置しても手術を受ければ良くなることがほとんどですから、あわてる必要はありません。我慢できなければ手術をうければよいわけです。

問題はしびれ、違和感、火照る、冷感といった症状です。残念ながらこれらの症状は、たとえ原因となる神経圧迫を除去しても良くならないことが多いため、手術適応になりません。手術で原因を除去しても良くならない症状ですから、内服、リハビリ等によって改善することもありません。

残念ながら有効な治療手段はなく、我慢するしかないのですが、自然に軽減することはありますので、あきらめる必要はありません。

神経痛と間違いやすい「動脈閉そく」

下肢の神経痛とよく間違えられる疾患に、動脈閉塞があります。下肢の動脈が詰まってしまい、血流が悪くなるため酸素や栄養が不足します。結果的に痛み、しびれ、冷感、長時間歩けない等の症状がでます。これは自分で判断することは困難ですから、気になるようでしたら受診しましょう。

下肢動脈閉塞は循環器の疾患ですが、頻度的には神経痛のほうが多いので、整形外科を最初に受診するのがよいでしょう。

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