変わる心房細動治療
2011年08月29日
心房細動は動悸や息切れなどの症状を伴い、時には脳梗塞や心不全などの合併症を引き起こし、さらには死に至る厄介な病気です。10年前まではその治療法は確立されておらず、治療の進歩もあまり見られませんでした。しかし最近、心房細動の合併症の治療、心房細動そのものの治療とさまざまな進歩が見られるようになりました。
長野中央病院 循環器内科 医師 河野 恆輔
心房細動治療の要点
心房細動治療の要点は、(1)合併症の予防―特に脳梗塞の予防(2)心房細動を引き起こす心臓病をはじめとした病気の治療(3)心房細動による動悸や息切れなどの症状に対する治療の3点です。
最初の(1)がもっとも大切で、このためには抗凝固療法といって、ワーファリンといういわゆる血をさらさらにする薬を内服していただくことが一般的です。
新しい抗凝固薬の登場
では、どんな患者さんが抗凝固療法を行う必要があるのでしょうか。
心房細動と診断された患者さんすべてがワーファリンを内服する必要はありません。表で示すように、それぞれのペースになる疾患が点数化されており、2点以上になる場合はかならずワーファリンの内服が必要です。1点は患者さんと医師がよく相談して決めます。0点では現在は内服の必要がないとされています。
危険因子 点数 心不全 1 高血圧 1 年齢75歳以上 1 糖尿病 1 脳梗塞、一過性脳虚血発作の既往 2
このワーファリン、効果はすばらしいのですが納豆や緑色野菜など食事に制限がある、効果がある量に個人差があり変動も激しいので、外来のたびに採血し利き方をチェックし、内服の量を調節しなくてはならない、などさまざまな難点がありました。
最近、プラザキサという新薬が発売になりました。新聞などで報道されているので聞かれている方もおられると思います。
この新薬は、食事の影響を受けないので納豆も食べることができる、利き方に変動がないので毎回の採血は不要などの利点があります。効果もワーファリンと同等かすこし良いという成績がでています。
しかし、新薬のため1回に2週間分しか処方できない(2週間に1回の通院が必要)、値段がとっても高い(月で5000円程違います)などの欠点があります。また心臓外科で人工弁に置換した患者さんには使うことができません。
ですから、現在ワーファリンで落ち着いている人は特に変更する必要はないと思いますが、どうしても納豆などを食べたいと思う方、採血が我慢できないとい思う方は変更しても良いかもしれません。またワーファリンの食事制限などがいやで、現在抗凝固療法を行っていない方はプラザキサでの治療をお勧めします。
ここまできたアブレーション治療
心房細動そのものの治療は、かつて薬物療法が中心で、追加で電気的除細動(電気ショック)が考慮されるというものでした。しかし、薬物療法は多くの患者さんでは数年で効果が下がり、規則正しい脈(洞調律)を保つためには内服を増量する必要もありました。それでも慢性の心房細動になる方も多く見られました。
数年前からカテーテルによる治療が行わるようになり、最近2年間はカテーテルなどの道具の改善、進化があり治療の成績が改善してきました。
治療の要点は、心房細動の発生、維持に必要となる肺静脈周囲をアブレーション・(焼灼)し、電気的に隔離するということです。発作性心房細動の場合は、1回のカテーテル治療で80~90%の患者さんで発作が抑制され消失します。持続性心房細動や慢性心房細動では効果が低いのですが、最近、肺静脈周囲以外にもアブレーションすることによって、80%程度の患者さんで心房細動の発生を抑制することができるようになりました。手術時間は3時間程度で入院は3日間(2泊)です。
心房細動で治療しているが、動悸や息切れなどの症状が改善しない方、検診などで心房細動を指摘された方、一度長野中央病院循環器科にご相談ください。