続・そけいヘルニアの治療

長野中央病院 外科 医師  成田 淳

年間約80例の手術を施行

3年ほど前の07年9月、そけいヘルニア(俗にいう「脱腸」)の治療についての記事を書きました。反響をいただき、「立った時などおなかに力を入れると、足の付け根“そけい部”がふくらむ良性の疾患」=そけいヘルニアに対する「元気にいきいきと生活していただくための治療」=ヘルニア根治術を多くの方に受けていただけました。

長野中央病院外科では、他施設からも大勢の患者様を紹介いただき、年間80例ほどの『そけいヘルニア根治術』を施行しております。

そけいヘルニアとは

そけい部は筋肉が層状に重なって構成されていますが、加齢などにより筋膜が弱くなることがあり、その場合、腹圧がかかった時などに腸がなどが飛び出し気味になります。片側の足の付け根にピンポン玉ほど膨らみが現れますが、横になったりしておなかの力を抜くと膨らみは小さくなります。これがそけいヘルニアです。

全くの良性疾患ですが、日常生活上不便さを感じている方も多く、元気な生活を送るためには手術加療を考えていただく必要があります。

また、まれではありますが、陥頓といい、飛び出した腸がヘルニアの孔にはまって抜けなくなってしまうことがあります。この場合は、緊急に腸を戻すか、緊急手術によって腸を開放する必要があります。

治療方法

治療は手術療法です。しかし、手術方法や、その手術を行うための麻酔方法について、施設ごとに考え方の違いがあり、全身麻酔下に腹腔鏡を使用する方法から、さまざまに開発されてきたパッチと呼ばれる、どの人工のシートを使用するか、麻酔方法はどうするかなどの違いがあります。長野市の中でも手術内容は病院ごとにさまざまです。

長野中央病院はそけいヘルニアの治療を患者様の視点から多角的に考え、各種情報と経験を吟味した結果、現在は、腹膜近くに円形または楕円形の薄い人工の網目状のシートをおき、さまざまな種類のそけいヘルニアに対応できる、ダイレクトクーゲル法という手術方式を採用しております。

脊椎麻酔をかけ、そけい部に5cmほどの切開を加え、人工のシートをあて腹圧に耐えうる壁を形成します。手術時間は30分ほど。前日の午後入院していただき、手術を施行。手術後4時間はベッド上で安静にしていただきます。手術当日の夕方からは歩行も食事も可能です。創部の抜糸は必要なく、翌日からシャワー浴も可能です。脊椎麻酔がきれると創部には多少の痛みを感じるため、鎮静剤を積極的に使用します。

疼痛の軽快を待ち、術後2~3日後、自宅生活が可能であることを確認し、ご本人と相談して退院を決めています。退院後はすぐに入浴も就労も可能です。それでも、術後しばらくの間は、創部に多少のもりあがりと違和感があります。それを改善するために、近年、より体に優しい手術素材と手術方法が開発されつつあります。

ヘルニア手術も日々進化しています。長野中央病院外科は積極的にそけいヘルニアの手術に取り組み、よりよい手術方法を求め、長野市のそけいヘルニアセンターになることを目指して努力していきます。

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