抗生物質の適正使用が求められています
2019年03月01日
長野中央病院・総合診療科専攻医 医師 小林 哲之
世界中が危惧されている薬剤耐性(AMR)
風邪をひいたら抗生物質をもらう―。以前は日常的に行われていた診療風景が、現在では不適切であることが分かってきました。それだけでなく、こうした抗生物質の不適切使用は世界に脅威をもたらす行為であるとして、世界保健機関(WHO)から注意喚起がなされ、全世界に向けた国際行動計画が策定されるまでに至りました。背景には、世界中で増加し続ける薬剤耐性菌の影響があります。
世界では年間約70万人が薬剤耐性菌が原因で死亡しています。このままのペースで増え続けると2050年には年間1000万人に達し、がんによる死亡者数を上回る勢いです。すでに結核やマラリアといった伝染病にも薬剤耐性(AMR)が増え、治療が困難になってきています。病原菌がひとたび薬剤耐性を獲得してしまうと既存の抗生物質では太刀打ちできず、有効な治療ができないまま病状は悪化の一途をたどってしまうのです。
これらは対岸の火事ではありません。昨年、長野中央病院では、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)という抗生物質の効きづらい菌が225件検出されています。
なぜ薬剤耐性 (AMR)が起きるのか
1980年代以降、世の中にはさまざまな種類の抗生物質が開発され、気軽に処方してもらえるようになりました。しかし、世の中に抗生物質が増えていくにしたがって、その薬剤に耐性をもち薬に打ち勝ってしまう菌が生まれ、少しずつ地球環境の中に蓄積してしまったのです。
先ほどのMRSAに感染した患者さんはバンコマイシンという抗生物質で治療することができました。では、バンコマイシンにも耐性を獲得してしまったら……?次に打つ手はどんどん限られ、患者さんの体力勝負の世界になってしまいます。
不必要な抗生物質を見直すことが大切
薬剤耐性を減らす一番の方策は、抗生物質の不適切使用をやめ、必要な時だけ使用することです。抗生物質は農薬や飼料にも使われますが、すでに畜水産分野では抗生物質の使用量を減らし、薬剤耐性の低下に成功しています。
医療機関でも同じように、不必要な抗生物質の投与を減らすことが大切です。よくある風邪やよくある胃腸炎でむやみに抗生物質を使わないこと、耐性菌を生みやすい抗生物質をなるべく使わないこと。抗生物質を「とりあえず」や「何となく」で扱わず、大事に大事に使用することが、未来の医療を守ることにもつながるのです。