ヘリコバクター・ピロリ菌と胃・十二指腸潰瘍

長野中央病院 内科医師 太島 丈洋

潰瘍とは

胃・十二指腸潰瘍は、消化性潰瘍(以下潰瘍と略)とも呼ばれます。消化性とあるように、胃や十二指腸の壁が胃酸で消化され、傷ついて削れてしまった状態です。
症状は食事に関係する心窩部痛、いわゆる「みぞおち」の痛みが代表的です。胃潰瘍では空腹時や夜間に多く、食事をするといったんおさまるがしばらくするとまた起こることもあり、十二指腸潰瘍では空腹時が特に多いです。
その他、吐き気、上腹部不快感、食欲低下、背部痛などもみられます。傷が深かったり、血管が表面に出てくると、潰瘍から出血が起こり、血を吐いたり、便が黒くなったりします。また、深いと穴があいてしまうこともあります。高齢になると痛みを伴わない場合もあり、注意が必要です。
胃はもともと食物を消化するために内部は強い酸性に保たれている一方、この酸から胃自身を守るため、表面には防御機構が備わっています。
従来、この酸を代表とする「攻撃因子」と、胃の壁を守る「防御因子」のバランスが崩れて潰瘍が起こるとされてきたのですが、最近ではこれに加え、『ヘリコバクター・ピロリ』という胃の中でも生きられる特殊な細菌が潰瘍の発生や再発に関わっていることが明らかになってきました。
潰瘍自体は、胃酸分泌を抑える薬を服用すれば短期間で治ります。しかし、潰瘍を起こした胃にピロリ菌が存在している場合は、ピロリ菌を取り除くこと(除菌)が再発予防に効果を発揮します。完全に除菌すると胃潰瘍で80~90%、十二指腸潰瘍でほぼ100%が再発しないという結果が出ています。

ピロリ菌の感染について

口からピロリ菌が入って感染するということは間違いないようですが、感染経路はいくつかの説があげられています(飲料水や親の唾液など)。
日本人は約4000万人が感染していると考えられています。若い人の感染率は低いのですが、40歳以上では80%ほどが感染していると言われています。
発展途上国では10歳までに90%が感染しており、ピロリ菌の感染率は、衛生環境と関係していると考えられています。上下水道が十分普及していなかった世代や国で高い感染率となっているのです。

除菌について

薬を服用することでピロリ菌を退治する治療を除菌療法といいます。ただしピロリ菌に感染しているすべての人が除菌療法を受けなければならないわけではありません。
ピロリ菌に感染すると胃に炎症をおこしますが、ほとんどの人は症状を自覚しません。潰瘍になる人も、感染者全体の2~3%といわれています。除菌療法の対象となる人は、潰瘍の患者さんでピロリ菌に感染している人です。
除菌療法は副作用(軟便、下痢、味覚異常、肝機能異常など)を起こす事があり、また長期的には逆流性食道炎が悪化した例もありますので、主治医とよく相談することが必要です。

除菌療法について

ピロリ菌の除菌療法は2種類の抗生剤と胃酸の分泌を抑える薬の合計3剤を同時に1日2回、7日間服用します。 その後さらに胃酸を抑える薬を1か月飲んで、その後2か月以上たってから、ピロリ菌が除菌できたかどうか、確認する必要があります。

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