脂肪肝と肝臓病のはなし

「何年も前から肝障害が指摘されているが、どうせただの脂肪肝だから放置している」こういった方に良く出会います。 「ただの脂肪肝」とは? 本当に放置してよい病態なのでしょうか。

長野中央病院 消化器内科医師  松村 真生子

肥満や糖尿病からの脂肪肝が出現

肝細胞に中性脂肪が沈着して肝障害を引き起こす病態を脂肪性肝疾患、その中で脂肪を伴う肝細胞が30%以上認められる場合を脂肪肝といいます。以前はアルコールによるものが有名だった脂肪肝ですが、近年、糖尿病や肥満などの生活習慣病(メタボリックシンドローム)によっても生じることがわかってきています。

現在、明らかな飲酒歴がないにも関わらず、肝組織所見はアルコール性肝障害に類似した脂肪沈着を特徴とする肝障害を、まとめて非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)と呼んでいます。

糖尿病患者の8人に1人が肝疾患で死亡

さらにNAFLDは、肝細胞の脂肪沈着のみを認める単純性脂肪肝と、脂肪化に壊死・炎症や繊維化を伴う非アルコール性脂肪肝炎(NASH)の2つに大別されます。NASHはNAFLDの中の重症型です。

肥満・糖尿病人口の増加に伴い、NAFLD人口は着実に増加しています。

先日、日本糖尿病学会から、我が国の糖尿病患者の8人に1人は肝硬変や肝がんといった肝疾患で死亡しているという驚くべき成績が報告されました。本邦のNAFLD罹患者はなんと1000万人いるとされており、今後はNAFLDが大きな社会問題となることが予想されています。

「ただの脂肪肝」が肝硬変や癌に

NAFLDの中で単純性脂肪肝については、病的意義はあまりないと考えられてきました。しかし近年、単純性脂肪肝からより重症型のNASHへ進行する症例があることがわかってきています。

さらにNASHについては5~10年の経過で肝硬変、さらには肝細胞癌へと進行する症例があることも知られています。みなさんが言う所の「ただの脂肪肝」が、肝硬変やさらには癌に至ることがわかったのです。

肝障害を放置しないことが大事

困ったことにNASHには症状がないため、診断時すでに肝硬変にまで進行している症例が20%前後存在しています。すなわち「お酒はほとんど飲まないのに何で私が肝硬変に!?」「ただの脂肪肝だと言われて安心していたのにどうして!?」「たしかに肝臓の値は何年も前から指摘されているけど、まさか肝硬変とは思っていなかった」とおっしゃられる方が多くおられます。

肝硬変になるともう元の健康な肝臓には戻れません。進行具合によっては浮腫や大量の腹水、黄疸や肝性脳症、日常的なひどい倦怠感に悩まされることになります。みなさんの脂肪肝は、本当に放置してもよい脂肪肝なのでしょうか?

何年も指摘されている肝障害を放置しないこと、そしてしっかりとした病織を持ってその病態に取り組むことが大切です。まずは消化器内科の門をたたいてみてください。

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