LGBTQ、性の多様性とは
2024年04月30日
長野中央病院 医師 河野 絵理子
2023年10月25日、LGBTQの人権保障について、最高裁大法廷は重要な判断を示しました。性同一性障害の人が性別を変更する際、生殖能力をなくす手術が事実上求められていることは憲法違反で無効というものです。また、「結婚の自由を全ての人に」訴訟もあります。これは、同性婚を認めないことは違憲であるとして、レズビアンやゲイの方たちが始めたものです。今年3月14日に東京地裁と札幌高裁でも違憲判決が出ました。これらは今、大きな注目を集めています。
「性のあり方」とは? 〜 SOGIE と LGBTQ 〜
LGBTQというのは、L=レズビアン、G=ゲイ、B=バイセクシュアル、T=トランスジェンダー、Q=クエスチョニング(クィア)の頭文字をとったものです。
レズビアン、ゲイ、バイセクシュアルは誰に魅力を感じるか(性的指向・恋愛的指向)を表現したもので、トランスジェンダーはどんな性別を実感しているか(性自認)の話です。クエスチョニングとは、自分自身の性のあり方について決めたくない/まだ模索中である状態を指す言葉です。LGBTにQが加わり、この言葉はより多様な性のあり方を指すようになりました。
一般的に「性別」と聞くと、「男・女」のふた通りと考えられることが多いと思います。しかしこれはあくまで「割り当てられた性」、つまり、生まれた時の見た目や形で判断されて、戸籍に登録された性、法律上の性のことを指します。これ以外にも「性のあり方」には多様な要素があります。また、性的指向(Sexual Orientation)と性自認(Gender Identity)、性別表現(Gender Expression)の頭文字を取って、性のあり方のことを「SOGIE(ソジー)」といいます。
LGBTQ が直面する困難
LGBTQはどれくらいの割合がいると思いますか?最新の調査では、10人に1人、およそ9.7%がLGBTQであると言われています。これは、日本で多い名字の上位7位までを足した7.6%よりも多く、左利きやAB型の割合と同じくらいです。
皆さんの周りに、佐藤さん、鈴木さん、高橋さんはどれくらいいますか?その人たちの顔が思い浮かんだのと同じくらい、LGBTQもいるということです。一人も思い浮かばないという人も多いのではないでしょうか。9.7%もいるLGBTQがどうして気づかれないのでしょう。それは、差別や偏見を恐れて隠れている人が多いということです。
LGBTQの61%が「誰にも自分の性のあり方を表明していない」という調査結果もあります。異性を好きになるのが当たり前とか、男女の区分が暗黙の前提となっている社会の中で、生きづらさを感じている人は少なくありません。
一緒に考えてみましょう
LGBTQはうつ病や死にたいと思う気持ちを抱くリスクが高いことも報告されています。また、医療現場で嫌な経験をしたり、受診により抱えている困難がより深刻になった、という人も半数以上いるという報告もあります。私はこの事実を知った時に、「命を救う最後の砦にならなければならない医療機関が、命や尊厳を奪う場所になっている」ということに衝撃を受け、多くの人にこの問題を知ってもらいたいと思いました。
私がお伝えしたいのは、LGBTQは「弱者や被害者、助けてあげないといけない人たち」ではないということです。当事者は、最近注目されるようになったというだけで、ずっと前から社会に合わせて生きてきたのです。そして、当事者自身で道を切り開いてきた歴史があります。本来ならLGBTQであることは問題ではありません。LGBTQを差別し排除するコミュニティや制度の問題なのです。LGBTQが安心して暮らせる社会は、すべての人にとって安心できる社会ではないでしょうか。一緒に考えていきましょう。