ピロリ菌と消化器疾患
2015年10月29日
長野中央病院 消化器内科 医師 田代 興一
胃がんの原因となるピロリ菌
胃がんで亡くなられる方は、現在、すべてのがんの中で、男性で2番目、女性で3番目に多いです。この胃がんの最も大きな原因が、ピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ菌といいます)による胃の慢性感染です。ピロリ菌はこの他に、胃潰瘍、十二指腸潰瘍などを引き起こすこともあります(注1)
※注1
胃潰瘍、十二指腸潰瘍は、ピロリ菌以外にいくつかの鎮痛剤などが原因となることもあります。ピロリ菌が原因となる病気は、他にマルト・リンパ腫や特発性血小板減少性紫斑病などがあります。
5歳ころまでに感染
ピロリ菌は乳幼児期、おおむね5歳ころまでに感染します。日本では、60歳の方の2人に1人が感染していますが、若い方の感染は少なくなっており、20歳では10人に1人もいません。これは衛生状態の改善によります。
乳幼児期にピロリ菌に感染すると、その後、胃にずっと棲みつくようになります。そして胃は自覚症状がないのに荒らされていきます。これを慢性胃炎といいます。このピロリ菌による慢性胃炎に対し、現在、除菌治療が行えます。
ピロリ菌の除菌治療
気をつけなくてはいけないことがいくつかあります。
ピロリ菌がいるかどうかの検査をするためには、内視鏡(胃カメラ)を受けて、ピロリ菌感染による慢性胃炎があるかどうか診断を受ける必要があります(注2)。
除菌のために、7日間薬を飲みますが、抗生剤が効かないような変化を起こした菌が増えており、うまく除菌できない方もいます。その場合は、別の組み合わせの抗生剤で再度除菌治療を行います。
除菌をすると、胃が元気になります。これは、胃酸や胃の消化酵素が増える(本来の状態に戻る)ということですが、もともと胃からその上の食道へ逆流がしやすい方は、食道炎で胸やけがするようになることがあります。
※注2
医療保険で除菌を行う場合、初めに胃の病気がないかどうかの確認のため、内視鏡検査が必須となっています。
除菌した後も健診を
30歳ころまでに除菌をした場合、もともとピロリ菌がいなかった方と同じくらい胃がんになりにくいと考えられています。しかし、ピロリ菌は、胃の中に長くいればいるほど胃に変化を起こすようになり、段々と除菌による胃がんの予防効果は少なくなります。ですから若い方を除いて、除菌した後も胃の健診を受けることが大切です。
日常の診療では、ピロリ菌の除菌について、良い点や副作用、限界などを理解していただき、治療をするようにしています。