心房細動をあきらめないで

心臓は人間の生命を維持する上で、最も大切な臓器のひとつです。その心臓が不規則なリズムを刻む状態を「不整脈」と言います。中でも心臓が「完全」に不規則なリズムになる「心房細動」は、歳をとればとるほど起こりやすくなり、60歳を境にしてその頻度は急激に高まります。70歳以上では10人に1人は心房細動があると言われています。

長野中央病院 循環器内科 医師 河野 恆輔

もはや心房細動は「完全治癒」できる病気

心房細動は脳梗塞や心不全を引き起こす原因になることが知られています。また最近の研究では認知症との関連性も指摘され、心房細動の患者さんはそうでない方より、約1.5倍も認知症になる確率が高いというデータもあります。

初期の心房細動の症状としては、突然の動悸として自覚されることが多く、また胸が痛い、めまいがする、と感じられることもあります。異常に気付いた方が来院され、早期に発見され、自然に元の脈に戻るものは、「発作性」心房細動と診断されます。しかし放置すると2~3年ほどで戻らなくなり、症状も軽度になり、いわゆる慣れてしまう感じになります。これを「持続性」心房細動と呼びます。5年以上経つと何をしても戻らない状態となり、いわゆる「永続性」心房細動となります。永続性になればほとんど動悸など感じないため、以前は放置しておいても良いと考えておりました。しかし発作性心房細動に対しても永続性や持続性心房細動の生命予後が悪いことがわかってきており、できるだけ元の脈(洞調律)に戻したほうが良いのではないかと考えられています。

発作性心房細動であればカテーテルを用いたアブレーション治療によって、1回の治療でも8割、2回目が必要な方を合わせれば9割の方が完治可能です。持続性の場合でも持続年数によりますが、3年以内ならアブレーションによって、ほとんどの方で元の脈を維持することが可能だと考えています。ただ5年以上続く心房細動では、2割程度は複数回のアブレーションでも洞調律の維持が困難になります。つまり心房細動は早期の発見であればあるほど、早期に治療をすればするほど完治の可能性が高いということになります。もちろん持続性、永続性と言われた方でもアブレーションによる治療で、多くの方は洞調律の維持が可能と考えています。

さてアブレーションについてご説明します。アブレーションとは「取り除くこと、切除すること」という意味で、カテーテルと呼ばれる細い管の先から心臓の組織に高周波の電流を流して、組織を小さく焼き切る治療法です。現在アブレーションは高周波以外に、バルーン(風船)を用いて行う方法も次々出現してきています。冷気で焼灼する「クライオバルーンアブレーション」、熱いお湯で焼灼する「ホットバルーンアブレーション」、さらにバルーンの中からレーザーを当てて焼灼する「レーザーバルーンアブレーション」の3つの方法があり、それぞれに特徴を持っています。当院ではこの4つの治療の特徴、メリット、デメリットを踏まえ、様々な選択肢を用意することで、患者さんの多様な症状に対応しています。

当院では9月にこのアブレーション治療を行う装置を最新型の機器に入れ替えました。近年の技術の進歩により従来の機器に比べより安全に、短い時間で治療が期待できます。また患者さんの身体への負担の軽減が図れます。

医学の進歩にチーム医療で迅速に対応

心房細動は、患者さんそれぞれの症状によって、患部の形がさまざまです。そうした個性を見極め、その進行度合いも見た上で、適切な治療法を選ばなければなりません。そのための選択肢は多ければ多いほど、治癒の可能性も拡がります。

もし心臓に違和感を覚えたら、すぐに、かかりつけ医や当院にご相談ください。いまは、心房細動を発症したとしても、あきらめる必要はありません。

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