高齢者医学のいま

今号では、高齢者医学における最近の話題についてお話します。

長野中央病院 内科 医師 原田 侑典

老年症候群

「老年症候群」とは、青壮年者には見られないが、加齢とともに現れてくる身体および精神的諸症状、疾患を指します。

老年症候群の代表的な症状・徴候としては、食べたり飲みこんだりする力の低下、関節・体の痛み、圧迫骨折、易感染性、認知機能の低下、うつ、頻尿・失禁、難聴、視力障害、めまい、虚弱、サルコペニアなどが挙げられ、多くの臓器、疾患が関与した症状や疾患であることが特徴です。

加齢に伴う生理的な機能の低下が原因の1つですが、そのほかにも糖尿病、高血圧などの慢性疾患、内服薬の副作用、社会的・心理的ストレス(近しい人との別れなど)も大きく影響します。

虚弱

老年症候群のすべての症状や徴候が多かれ少なかれ生活に支障を及ぼしますが、中でも「虚弱」という状態は、生命活動に重要な役割を担っている各種臓器の予備能力が低下し、体が環境変化に適応できなくなり、健康状態が悪くなったり介護が必要な状態になる前の段階として重要視されています。

虚弱は体重減少、握力低下、疲労感、歩行速度の低下、身体活動量の減少を指標として評価します。5項目中3項目以上該当すれば“虚弱状態”、1~2項目該当すれば“虚弱予備状態”と定義されるのが一般的です。

虚弱の出現率は年齢が高いほど割合が高くなり、男性よりも女性に多いとされています。虚弱の要因は様々ですが、最も中心的な要素は「サルコペニア」であると指摘されています。

サルコペニア

サルコペニアとは、筋肉減少症とも言われ、全体として筋量の減少に伴い身体機能が損なわれる状態のことを指します。サルコペニアになると転倒の機会が増加し、けがが多くなり、痛みなどで動く範囲が制限されます。その結果、身体活動が減り、食事量が減るためにサルコペニアがさらに進行します。

この状態が続くと体のタンパク質の貯蓄が減るため、病気になった場合の対応力が低下し、回復までの時間が長くかかるようになり、さらにサルコペニアが進行し、虚弱状態に至ります。

予防が重要

サルコペニア、虚弱を中心とした老年症候群は、出現してしまうとなかなか治癒が期待できないため、予防が大切です。

そのためには、食事をしっかり摂ること、適度な運動をすること、趣味を楽しんだり、友人・家族と交流することでストレスを解消することが重要です。もちろん、慢性的な病気を持っている方は、定期的に通院して安定した状態を維持することも欠かせません。

しかしながら、予防に励んでも症状が出現してしまうこともあります。そんな時に注意していただきたい点が2つあります。

1つは、「やせ我慢しない」ことです。目が見えにくい、耳が聞こえにくい、歩きにくいといった症状を感じた場合は、眼鏡、補聴器、歩行補助具を適切に使用するようにしましょう。そうすることで身体に対する不自由さのストレスが軽減しますし、転倒する危険性も減少し、更なる老年症候群の発生を抑えることができます。

一方で、「すべてを解決しようと思わないこと(特に薬で)」も大切です。高齢者では薬の種類が7種類以上になると副作用が急激に増すとも言われています。ですから、複数の症状がある場合でも、どうしても解決したいものとそうでないものに自身で順位をつけ、本当に必要な薬だけ出してもらうようにしましょう。

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