人工膝関節置換術とは

長野中央病院 整形外科 医師 前角 正人

傷んだ関節を置き換え

健康な膝関節は衝撃をやわらげ、なめらかに動くので、痛みなく歩いたり、しゃがんだりできます。しかし膝に問題が生じると動くと痛むようになり、進行すると正座ができなくなったり、歩行が制限されるようになります。

軟骨のすり減りが主体で発生する変形性膝関節症、滑膜の炎症が主体で進行する関節リウマチなど、病気の進行とともに関節が使えなくなります。

このような障害に至った膝関節は、金属やポリエチレンなどでできた人工関節で入れ替えることで、痛みがなくなり、歩行能力が改善されます。この手術を人工膝関節置換術(以下TKA)といい、日本国内で1年間に8万例以上の手術が実施されています。当院でも、年間20例ほどあります。手術する方の年齢は平均73歳といわれ、当院でも80代後半の高齢の方も手術しています。

手術と経過

TKAの手術時間は通常2時間程度です。手術には感染を予防するため、クリーンルームを使用して行います。麻酔は全身麻酔で、麻酔科の医師が安全に全身管理をしています。手術に伴う出血がありますが、輸血に至る症例はほとんどありません。手術の合併症として、感染、血栓症などのリスクもありますので、術中、術後は注意深い観察を必要とします。

ほとんどの患者さんは術後4週間程度で、杖を使って歩くことができます。したがって、入院期間は約1か月程度です。入院中に、日常生活動作、特に、入浴、階段昇降、畳での生活、トイレ動作について訓練します。

疼痛の改善と歩行も可能に

退院後もしばらくリハビリを要しますが、手術後半年の経過で、通常、疼痛は80%以上改善し、多くの方は独歩で生活が可能です。手術前にできたことは手術後もほぼできると考えて差し支えありません。自転車や車の運転は退院後数か月でできるようになりますし、水泳やサイクリング程度はできるようになり、筋力低下や骨粗鬆症の予防にもなります。

注意点としては、長い階段昇降や床からの立ち上がり動作を頻回に行うと、人工膝関節に負担がきますので気をつける必要があります。また、走ったり飛び跳ねたりの衝撃を加えることは、人工関節の破損の危険があるのでしてはいけません。

再置換手術でも復帰可能

TKAは膝関節の悪い患者さんに多くの恩恵をもたらしますが、長い年月が経過すると緩みが生じ、入替え(再置換)の手術が必要となる場合があります。しかし、再置換手術を受けることになっても、1~1・5か月の入院で、ほぼ元通りに復帰することが可能です。

退院後は、最初の1年は3か月毎、退院後2~3年間は半年毎、その後は年1回受診し、経過観察を受けます。

人工関節置換術は、整形外科では一般的な治療法として確立しつつあります。私たちも、少しでも膝関節障害の改善の手助けとなるために日々診療しています。

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