糖尿病の血管合併症を血糖、血圧、脂質の総合的治療で予防す
臨床研究(JDOIT3)の結果報告

長野中央病院 心臓病センター長 医師 山本 博昭

2007年から試験開始

我が国の糖尿病の有病者数は1000万人といわれ、人工透析や失明の第1位の原因であり、さらに脳梗塞や心筋梗塞、認知症の背景要因としても極めて重要です。

この糖尿病の血管合併症を、血糖、血圧、脂質の3つを厳格にコントロールすることで30%減らそうという研究が2007年から開始されました。3点につき厳格な治療を行う1300人と、通常治療の1300人を比較して厳格治療で合併症が減るかをみた試験です。当院も全国の81の糖尿病基幹施設に選ばれて約25名の方に参加いただきました。

本年になり研究が終了して、結果が欧州の雑誌に掲載されました。私は2007年に「みんなの医療」で開始案内しましたので結果概略を紹介します。世界的にはこうした研究は既に3つ行われ、動脈硬化予防は10%程度と結論されています。また1つの研究では厳格なコントロールのために低血糖が頻発して死亡率が上昇しました。

初期の8年の治療により8年後に大きな差が出る

今回の日本の研究結果は大きくこれらと異なり、以下の3点が示されました。

Ⅰ、丁寧に治療すれば厳格治療群でも低血糖は少ない。
Ⅱ、20年前の研究と比較すると、糖尿病治療は大幅に進歩しており、従来治療群でも脳梗塞や心筋梗塞の発生は半減している。
Ⅲ、今回の厳格治療群では合併症が図のように更に減少しており、特に脳血管合併症が58%も減少している。

これらの結果は、低血糖に留意しつつ糖尿病初期の8年しっかり治療すれば8年後に大きな差が出ることを示しています。この早期の厳格治療はその後の運命も好転させます。既に英国で行われた研究では、厳格治療した人たちでは研究終了10年後も心筋梗塞や脳卒中の新規発症が少ないことが示されました。遺産効果と呼ばれるものです。すなわち早期にしっかり治療をしておけば、数年後から少々甘くなっても、初めの頑張りの遺産で合併症が大幅減少します。日本のJDOIT3 研究もこの終了後のフォローを行っています。

以上、長い期間の研究でしたが重要な結論が導かれました。参加された皆さまには大変ご努力いただき誠にありがとうございました。

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