ひざや腰の痛み、骨折を防いで健やかな日々を

世界保健機構(WHO)は2010年までを“運動器の10年”として位置づけています。私たち整形外科もこれに呼応し、運動機能障害からの解放を目指し、終生健やかに身体を動かすことができるように診療に当たっています。

長野中央病院 整形外科 前角 正人

健康寿命を左右する運動器疾患

運動器とは、身体活動を担う筋・骨格・神経系の総称で、それらが密接に連動・連携して運動器としての役割を発揮しています。運動器こそが動く生物(動物)の原動力であり、人が自分の意志で活用できる唯一の組織・臓器です。人は運動器を介する身体活動によって、自己の存在を証明し、尊厳を保持しています。

この間、人々の主な関心は生命を長らえることでした。飛躍的に進歩している医学の恩恵を受け、わが国の平均寿命も急速に伸びています。一方、自由に活動ができる健康寿命は平均寿命に比べ6~8歳ほど低くなっています。この差を減少させることが大事です。

介護保険の「要支援」状態の原因の25%は運動器疾患によるもので、その1つは、加齢変化としての変形性関節症や腰痛症など、徐々に運動機能低下が進むものです。もう一つは、骨粗鬆症を持つ高齢者に骨折が発生し急激に機能低下が発症・進行するものです。

ひざに多い変形性関節症

変形性関節症は、身体のどの関節にも起こりえますが、発症の多さと障害の大きさから膝関節が最も代表的なものです。皆さんもテレビコマーシャルでよく見かけることでしょう。

歩行時の疼痛が愁訴であり、可動域制限、O脚変形が出現します。鎮痛剤、電気治療、装具治療などの対症療法が行われていますが、運動療法を主体とした治療により一定の効果が認められつつあります。(図1)

またひどく進行した場合、対症療法には限界があり、当院でも人工関節置換術などの手術治療も行っています。(図2)

図1 ふとももの前の筋肉(大腿四頭筋)を強化する

最も症状が多い腰痛

腰痛は有訴率(その症状を有する患者の割合)が1位であり、腰痛に苦しむ患者さんがいかに多いかわかります。腰痛の原因は多数あり、また、特に原因のはっきりしない腰痛も多いです。一般的に「ぎっくり腰」などの急性腰痛症では、安静、鎮痛剤、コルセット等の受動的治療が主体となりますが、慢性腰痛症では運動療法などの能動的治療法が主体となります。(図3)

腰痛症の中でも、神経症状を有する「椎間板ヘルニア」や「脊柱管狭窄症」では、その症状によってブロック治療とか手術治療が行われます。

骨折は早期の手術が重要

次に高齢者に発生する骨折についてですが、まずは予防が大事です。原因は転びやすさ(運動機能低下)と折れ易い骨(骨粗鬆症)といった内因性のものと、段差・障害物といった外因性のものがあります。内因性の予防として、運動療法や骨粗鬆症治療があります。(図4)

骨粗鬆症骨折の発生する部位は、股関節、脊椎、手関節、肩(上腕)が代表です。これらの骨折のうち、股関節ではほぼ全例が手術治療となり、当院でも年間100例程度あります。(図5)

骨折後は身体を起すことができないため、高齢者では肺炎などの合併症を起こすことが少なくなく、受傷後早期の手術治療が重要と考え、現在、受診当日の手術は30%程度、3日以内では90%が手術を施行しています。手術により翌日には車椅子に乗ることも可能となります。

また、手関節、肩関節も、よりよい機能回復を目指し、手術治療の割合が増加しています。

便利な世の中は、筋肉・骨・靱帯等の衰えを促進し、運動器の障害を増加させています。基本的な生活習慣を保つことが筋・骨格系の機能維持に有用です。私たちは、運動機能の障害を解放し、人生の生き甲斐や人生の質(QOL)を維持できるよう診療に当たりたいと考えています。

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