乳癌の早期発見とMRI

長野に来て2年が過ぎましたが、この冬の大雪は印象的でした。物流が途絶え、普段食べている食品がスーパーから無くなって、改めて大自然のパワーと人間の作り出した日常のもろさ、そして長野が山国であることを認識しました。癌を含め人間の体内で日々起こっているさまざまな自然現象といかにつきあっていくか、真摯に考えていかねばと思うこの頃です。 さて、2012年8月号に続き、今回は乳癌を早期発見するための最新の検査方法について紹介します。

長野中央病院 外科・乳腺外科 医師・医学博士 中島 弘樹

マンモグラフィーと超音波検査の長短

現在、長野中央病院で主に乳癌検診に使われている診断機器は、マンモグラフィーと超音波です。それぞれの機器には得手不得手があります。

マンモグラフィーはX線を用いた検査で、立体構造である乳房を押しつぶして撮影する検査方法です。このため構造物に重なりが生じ、小さなしこりは見えないことがあります。特に乳房内の脂肪が少ない、乳腺組織のしっかりした方には不向きです。その反面、X線を通さないカルシウムを含む微細石灰化病変と呼ばれるものは、非常に良好に描出されます。X線を利用するので、被曝のことも考えなくてはいけません。

超音波検査は、音波の跳ね返りを応用した検査方法です。「やまびこ」を思い出してください。近くの山からはすぐに、遠くの山からは少し遅れて聞こえますね。この原理を利用した超音波はしこりの描出には長けていますが、せいぜい3mm程度までで、微細石灰化病変のように1mmに満たないものは描出困難です。

また、乳房を細切れに検査するので、検査している医師や技師が小さな物体を病変と認識しないと見逃してしまう恐れがあります。できるだけ小さいうちに見つけたいのに……難題です。

微細な病変がわかる最新MRIを導入

この難題に少し救いを与えてくれる検査機器がMRI(磁気共鳴画像)、磁石の力を利用した検査機器です。どでかい電磁石ですので、財布を持って入ると大切なカード類がすべて使用不能になってしまいます。

当院では組合員の皆さんに支えられ、4月に最新の3テスラ高精細MRIが導入できました。乳房MRIのガイドラインは1.5テスラ以上が推奨されているので、十分にその条件を満たします。

磁場にさらされた荷電粒子に特定の周波数の電磁波を与えると、荷電粒子は音叉のように共鳴し自ら電磁波を発します。この現象を核磁気共鳴といいます。MRIは生体内に最も多い物質である水素原子にこの核磁気共鳴を起こして画像を得るのです。マンモグラフィーやCT検査と違い放射線被曝がないことも大きな特徴です。

乳房の撮影は、うつ伏せのような格好で両方の乳房を乳房専用コイルに収めて行います。この作業が一番大切なので女性技師が手伝います。後は乳房内部の腫瘍を明らかにするための造影剤の注射をします。こうして撮影された画像により、マンモグラフィーでも超音波でも描出困難だった微細な病変がわかってくることがあります。

乳癌検診をすべてMRIで行うことはできませんが、必要な場合はMRIを積極的に利用し、乳癌の早期発見、そして長野中央病院を利用してくださる方々の安心に貢献できればと考えています。

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