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健康・病気の知識

母子健康手帳いまむかし

   
長野中央病院 小児科 後藤 隆之介

母子手帳のはじまり

   小児・産科医療の要となっている「母子手帳」ですが、その歴史はどういったものなのでしょうか?
   実は、母子手帳は日本で生まれました。そのルーツは、戦時中に妊産婦が優先的に物資をもらえるように、70年前につくられた「妊産婦手帳」です。
   戦後施行された児童福祉法にあわせて妊産婦に加え小児も対象となり、母子手帳と改名されたのが、現在の母子健康手帳(通称「母子手帳」)のはじまりです。現在では日本のほぼすべての母子が使用しており、小児や妊産婦が医療機関に受診する際の必需品の一つとなっています。

世界に広がる母子手帳

   母子手帳の利用者は日本国内にとどまらず、世界でも広く利用されています。
   1980年代以降、国際協力機構(JICA)が主体となって世界中の国々に母子手帳を広めようという動きが活発に行われており、2021年6月現在、27カ国で母子手帳が導入されています※1。
   その有用性は複数の研究で立証されており、今後も母子手帳は世界の母子の健康を守っていくことでしょう※2。

難民支援のために電子化も

   また、日本の一部の自治体では母子手帳の電子化に向けた動きも進んでいます※3。日本では全国的に普及している公式の電子母子手帳は、存在しませんが、海外では電子母子手帳が大規模導入された例もあります。
   たとえば、レバノンやヨルダンなど中東の国々でパレスチナ難民に対して導入されたe-MCH Handbookは、JICAと国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)が共同で開発した電子母子手帳(スマホアプリ)です。筆者もヨルダンでの導入に携わりました。以前から母子手帳を広く利用していたパレスチナ難民にとって、紙に代わって欠かせない存在になりつつあります※4。
   e-MCH Handbook は UNRWAの保険センターの電子カルテデータと直接リンクしており、自身の健康データをスマートフォンで見られるなどのメリットもあります。スマホを持たないパレスチナ難民が引き続き紙の母子手帳を利用できるようにしつつ、電子母子手帳も併用することで、より多くの人が母子手帳の恩恵を受けられるような仕組みづくりが UNRWA ではなされています。このように、紙・電子媒体共に、今後も母子手帳は国際的に広まっていくと思われます。

「誰ひとり取り残さない」の理念実現へ

   日本でもこども家庭庁の設置により母子保健データの一元化が進められる予定で、それに伴って全国的に電子母子手帳が普及する日も遠くないかもしれません。もちろん、電子化にはメリットもデメリットもあるため、母子手帳がデジタル時代でも「誰ひとり取り残さない(No one left behind)」の理念を実現していけるかが着目されます※5。

参考文献
1. 特定非営利活動法人 HANDS. 母子手帳 . 2021. https://www.hands.or.jp/activity/boshitecho/
2.Magwood O, Kpad? V, Thavorn K, Oliver S, Mayhew AD, Pottie K. Effectiveness of home-based records on maternal, newborn and child health outcomes: A systematic review and meta-analysis. PLOS ONE. 2019-01-02 2019;14(1):e0209278. doi:10.1371/journal.pone.0209278
3.Kanagawa Prefecture. Digital Maternal and Child Health Handbook User Guide. 2019. https://www.pref.kanagawa.jp/library_documents/boshimoeigo.pdf
4.Nasir S, Goto R, Kitamura A, et al. Dissemination and implementation of the e-MCHHandbook, UNRWA’s newly released maternal and child health mobile application: a cross-sectional study. BMJ open. 2020;10(3):e034885.
5.Goto R, Watanabe Y, Yamazaki A, et al. Can digital health technologies exacerbate the health gap? A clustering analysis of mothers’ opinions toward digitizing the maternal and child health handbook. SSM-population health. 2021;16:100935.